パート1・セクション5「職務分掌マニュアルによって明確になる職務責任・職務権限」

職務分掌マニュアルのあり方・作り方・使い方

パート2セクション7「委任判定」で詳しく説明するが、当講座の言う通りに職務分掌マニュアルを作成すれば、職務責任・職務権限は明確になる。

なぜならば、職務に就いた者が行う作業(複数)を具体的にした後、それぞれの作業について、、、

a. 作業の方法について、なんらかの取り決めがある

または

b. 作業をするたび、然るべき人もしくは部署に、作業の方法について指示を仰ぐ

または

c. 作業をする人に、作業の方法を委せる

のどれに該当するか判定することになるからだ※1。

aと判定された作業については、規定した範囲内での責任を組織が負う。作業者はその規定を拒否する権限を持たない。

bと判定された作業については、指示した範囲内での責任を指示者が負う。作業者はその指示を拒否する権限を持たない。

逆に、cと判定された作業については、作業の方法について作業者が責任を負う。そして、自分の判断で作業の方法を決める権限を持つ。

とかく一般では、職務責任・職務権限(職責・職権)については、職務丸ごとの相対的比較で上位下位を判断し、上位の者が全面的に、下位の者より責任が重く権限が大きいとしてしまいがちだ。しかし、私は、職務丸ごとではなく、作業ごとにこそ責任・権限の具体化が可能だ、と思う。

一つ、仮想のケースを示そう。

たとえば、有料集客施設の入場ゲートに立ち、お客様の出入りをコントロールする職務があったとする。それを仮に「入場ゲート職務」と呼ぶことにしよう。そして、この職務には臨時雇用のパートタイマー社員を就けることとする。

こうした中、たまたま当該施設を経営する会社の専務取締役が、従業員専用ゲートがあるにもかかわらず、入場券も社員証も持たずしてお客様用のゲートを通り抜けようとした。「入場ゲート職務」のパートタイマー社員は、この専務取締役を制止したところ「自分は専務取締役なのだからゲートを通せ」と言って譲らない。専務取締役の顔を知らないパートタイマー社員は不審に思い、またこの対応に囚われて一般のお客様を待たせたり騒ぎを見せるのは良くないと判断し、近くにいた警備職務を呼び、対応をバトンタッチした・・・とする。

この仮想ケースでは、「入場ゲート職務」の入場者を選り分ける作業においては、権限は専務取締役より上回ったことになる。※2

職務分掌マニュアルの導入を検討する人から、導入のメリットを聞かれることが多い。メリットは使い方次第で色々と発生するが(後述・パート3セクション1)、使い方に関係なく発生するメリットは、職務責任・職務権限が明確になるということである。このメリットは、使い方次第で発生するメリット(後述)に比べても、一番大きなメリットである。


※1:
作業の方法はこのabcの3つに分類できるという説を否定する人もいる。そうした人の言い分をよく聞いてみると、決して、この分類自体を否定しているのではなく、「日本の組織は、こうした取り決めを曖昧にしたまま運営している実態があり、組織の一員としてはその実態に従わざるをえない」という諦めの気持ちを吐露しているに過ぎないことを知った。私のこの3分類は、まさにこうした実態を改善しようとの意図であるから、否定されようとも引き続きabcの3分類を強く主張する。

※2:
組織がより一層組織力を発揮するためには、下位へ下位へと権限を部分委譲していく必要がある。そうしなければ、極端な場合、あらゆる事を組織トップが判断し、他の人たちは皆、指示待ちになってしまう。指示待ち状態が続けば、考える力も衰える。考える力が衰えれば、創意工夫もできず、改善提案もできない。私がここで言うまでもなく多くの人が唱えている説かもしれないが、上述の中で特に注意して頂きたいのは、「権限を部分委譲」するという言い回しである。つまり、権限を丸ごと委譲するわけではないという観点だ。丸ごと委譲しては、極端な場合、上位の人間は不要な存在になってしまう。当講座の「委任判定」方式を導入すれば、どの部分を委譲し、どの部分は委譲しないかが、具体的に明らかになる。


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