パート2・セクション3「準備」

職務分掌マニュアルのあり方・作り方・使い方

3‐1「基本的な考え方」

ステップ・バイ・ステップで進める職務分掌マニュアル作成方法において、「準備」は、大切な第1ステップだ。「準備」とはいえ、そこには後々に影響を与える重要な事柄が含まれており、もし「準備」が不足だと、プロジェクトが頓挫してしまう確率が高まる。以下の説明にしたがい、しっかりと準備して下さい。


3‐2「事務局の設置」

複数の職務分掌マニュアルを並行して作成する場合には、必ず事務局を設置する。一つの職務分掌マニュアルを作成する場合でも、事務局があったほうがベターである。職務分掌マニュアルの全社的管理機能は、規程を管理する総務部が持つべきなので、制作プロジェクトの事務局も、総務部内に置くことが理想である。※1

事務局は、プロジェクトを全体的に仕切る役割を果す。職務分掌マニュアルの原稿(特に作業手順書)を作成は、その職務に精通した現役をプロジェクトの核に据えてその人に行なってもらうが、事務局には少なくとも次を行なう。
・職務分掌マニュアルを作成する対象の職務の確定(一つまたは複数)
・プロジェクトメンバーの確定
・説明会の実施
・作業日程の調整
・書式の点検
・文章の校正
・成果物の冊子化/電子化

また、必要に応じ、経営トップや部門長への進捗状況報告、部門間の調整、職務間の調整なども行う。

以上から理解できるように、プロジェクトの成否は事務局の力に掛かっている。それゆえ、事務局の責任者は、部門間調整や経営トップへの進捗報告ができる実力のある管理職の就任が望まれる。
事務局員としては、細やかな事務作業をこなせる人が必要。つまり、管理職クラス1名と事務作業をこなせる人1名以上、計2名以上が事務局メンバーとなる必要がある。

事務局の責任者は、要所要所での登場、必要に応じての登場となるので、制作する職務分掌マニュアルの数と関係なく、専任になる必要はない。しかし、事務局員は、数多くの職務分掌マニュアルを同時制作する場合には、得に手順書の校正、参考資料の整理の際に、専任に近い状態になる可能性がある。

なお、当講座は、以下、事務局主体に複数の職務分掌マニュアルを作成するプロジェクトを進める観点から執筆する。


3‐3「組織図の確認」

職務分掌マニュアルを作成するには、当然のこと、作成の対象とする職務を確定しなければならない。そのためには、組織がどのような職務で構成されているか、掴む必要がある。掴んだ結果は「職務単位の組織図」として表す。

この「職務単位の組織図」を作るにあたっては、会社全体の組織図を確認することから始める。

官民問わずいかなる組織でも、組織全体の組織図は必ずあると思う。ここで言う「組織全体の組織図」とは、民間企業を例にとれば、社長をトップに記し、その下に取締役会、その下に「部」、さらにその下に「課」などが記されている図のことだ。事務局は、これをさらに細分化して「職務単位の組織図」を作ることになる。

 

3‐4「職務単位の組織図の作成」

業種によっては、当講座を読むまでもなく、すでに職務単位の組織図が存在していることと思う。

たとえば、交通機関の運営においては、運行指令の職務、乗り物を運転・操縦する職務、旅客に応対する職務などが明確になっているはずである。それらの関係を表現した図があれば、それは、私にとってみれば、まさに「職務単位の組織図」である。

工場では、一つの生産ラインを、複数の人が複数のポジションを交替しながら運営する場合、職務単位の要員の配置図があるはずだ。それも「職務単位の組織図」である。ちなみに、当講座の職務分掌マニュアル作成法では、「ポジション」や「ポスト」という概念も、「職務」という概念と同じ扱いにして分析を進める。

ところが、たとえば事務などの職種では、上述のように役割分担が明確になっていない場合がある。役割分担が明確でなければ、職務を特定することができない。このような場合には、職務単位の組織図がない状態と言える。

また、たとえば、多数の営業マンのみで構成される部署があるならば、その部署の責任者(当講座ではこれも一つの職務として考えるが)を除いたら、みな同じ職務となるであろうから、「職務単位の組織図」は最もシンプルとなる。部署の責任者という職務の下に一本の線があり、その先に「営業担当」という形となるだろう。

ただし、「商品群別に担当が分かれ、かつ、担当によって営業の方法が全く異なる場合」や、営業マンの他に「お客様からの電話対応や受注処理をする人」「営業支援事務をする人」「メンテナンスサービスの人」「広告宣伝を担当する人」等が同じ部署に所属する場合は、「職務単位の組織図」を作り、職務分掌マニュアルを作り、役割分担を明確にするに越したことはない。


3‐5「職務分掌マニュアル作成対象の職務の確定」

「職務単位の組織図」ができた後、その中に記されたどの職務について職務分掌マニュアルを作成するのか、確定する。※3

やる以上は一気に全ての職務の職務分掌マニュアルを作成しようと考える人もいるものだが、実際には、作成の対象を絞り込んだうえで行うことをお勧めする。特に、初めて職務分掌マニュアルを導入する場合は、かなり絞り込むことを強くお勧めする。初年度は、業務の核となっている一つの職務だけを行い、2年目は二つ、3年目は四つ、という風に増やしていく方法もある。こうすれば、事務局の人も徐々に慣れていくことができ、事務局専任とならずにプロジェクトを運営することが可能だ。


3‐6「プロジェクトメンバーの選出」

プロジェクトメンバー(事務局以外のメンバー)は、一つの職務あたり(つまり一つの職務分掌マニュアルあたり)、その職務に精通している人を3人選出することが理想だ。

ここでいう「職務に精通している人」とは、現在職務に就いている人だけに限らない。その職務を管理監督する立場にある人、その職務の訓練を行う専任インストラクターなども、その職務に精通しているだろう。

理想の人数が3人である理由は、まさに「三人寄れば文殊の知恵」だから。3人であれば、ディスカッションが弾み、作成・検討がスピーディに進むうえ、漏れや見落としの確率が減る。だから、3人という理想はなるべく実現したいものである。

しかし、現実には、その職務に精通した人が一人しかいない場合がありうる。この場合は、せめてその職務を過去に経験したことがある人や、その職務を管理監督する立場にある人が、時間の許す限り助力してあげる体制を作ること。とにかく、一人であると、考えが煮詰まってしまい前進しにくくなる。

逆に、人数が多すぎると、とりまとめが大変になる。ただし、作業手順書を何十枚・何百枚も作る必要がある場合には、プロジェクト期間の超長期化長を避けるため、このステップにおいてだけ一時的に多数動員し、作成を割り振る手段がある。

なお、上述の説明は一つの職務当たりの人数についての説明であり、複数の職務分掌マニュアルを同時並行で作ろうとする場合は、プロジェクトメンバー(事務局を除く)は、上記の人数に、作成しようとする職務分掌マニュアルの数を掛けること。たとえば5つの職務分掌マニュアルを同時に作成するのなら、3人×5職務分掌マニュアル=15人となる。


3‐7「説明会実施」

プロジェクトメンバーが決まったら、事務局は、全員を集めて、説明会を実施する。その際には、「プロジェクトの趣旨と期間」のみならず、「制作のステップ」「各ステップの概要」も説明し、全員が集合して作業をする日を決めておく。

プロジェクトメンバー全員に当講座を読んでおいてもらい、説明会の前に自習しておいて頂くのも一つの手段である。が、事務局さえ当講座を理解し、ステップ・バイ・ステップで進行管理することができれば、プロジェクトメンバーに対して当講座を読むこと義務づける必要はない。むしろ、それが彼らの重荷になって逆効果となることを心配すべきだ。それゆえ、自主的に読みたいと申し出た人にだけ、読んで頂くのが適切だろう。

いずれにしても、説明会の際には、ステップ・バイ・ステップで進めることを強調して頂きたい。そして、各ステップの具体的な方法については、ステップごとに解説することを伝え、一気にすべての詳細を説明しようとはしないこと。この段階では、あくまでも「プロジェクトの趣旨と期間」「制作のステップ」「各ステップの概要」の説明に留めておく。


※1:
私は、組織を統轄する部署は必ず要ると思っており、その部署に命名するならば「総務部」が適切だと思っている。だが、組織内で周知徹底できるのであれば、それ以外の名称でも構わない。ただし、「統括する部署が複数ある」と勘違いさせてしまうような名称は避けるべきである。
なお、この部署は、最高責任者の単なるメッセンジャーボーイという機能ではなく、最高責任者が枕を高くして眠れるほどの、自主的な判断と行動を発揮する機能がなくてはならない。そのためには、最高責任者から「具体的な権限委譲」がされている必要がある。「具体的な権限委譲」の方法は、パート2セクション7を参照。

※2:
「職務」と「ポジション」「ポスト」を同じ扱いとしてしまうことに抵抗感を示す人もいる。さらには、職位、職階、職層、職能、職群、職種等々の様々な言葉まで提示し、使い分けようという意見が出る場合もある。たしかに、それぞれ独自の意味を持たせることはできなくはない。が、少なくとも、一人の人間が責任を持ってその仕事を行うという共通性から、便宜的であっても、「職務」「ポジション」「ポスト」は一本化してしまうべきだ。

※3:
どのような職務は職務分掌マニュアルが必要で、どのような職務は職務分掌マニュアルが不要か、パート3セクション3「職務分掌マニュアルが必要な職務/不要な職務」に、おおよそのガイドラインを示したので、ご参照ください。


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