問題解決アプローチ004

講師:蒔苗昌彦

問題を徹底的に分解しよう!

「問題」への対処のアプローチの第1ステップは、問題の「原因」を洗い出すことです。このことはすでに誰でも理解しているはずです。

洗い出された「原因」は、「問題構成要素」と呼ぶことができます。また「小単位の問題」と呼ぶこともできます。そして、原因(=問題構成要素=小単位の問題)ごとに、対策を講じていくことにより、適切に問題解決を図ることができます。この過程は、問題の分解(または細分化)と言えます。

誰でも分かるはずのとても易しい仮想事例を一つ挙げましょう。それは、「或る会議室が薄暗い」という問題です。

もしこの問題を分解しないまま対策を考えても、「暗いのなら、照明を増設すればいい」といった程度の考えしか出ないでしょう。

しかし、該当会議室を現地調査した上で、この問題を分解してみたところ(つまり「原因を洗い出してみたところ」)、

・「複数ある電球のうち、一つが劣化し照度が落ちていた」
・「壁紙の色が経年劣化でくすんでいた」
・「カーペットに靴の汚れが蓄積していた」
・「窓の外の際にある樹木が大きく育ち過ぎて日中でも光を遮っていた」
・「窓の屋外側が土埃で汚れていた」

といった問題の構成要素(つまり諸「原因」)があることが分かったとしましょう。この段階になれば、それぞれの問題の構成要素(つまり諸「原因」)に対し、それぞれの特性に応じた対策を次のように立てることができます。

・「複数ある電球のうち、一つが劣化し照度が落ちていた」
→劣化している電球を交換する

・「壁紙の色が経年劣化でくすんでいた」
→壁紙(明るい色の壁紙)に張り替える

・「カーペットに靴の汚れが蓄積していた」
→カーペットのクリーニングを行う または 新品に交換する

・「窓の外の際にある樹木が大きく育ち過ぎて日中でも光を遮っていた」
→樹木を大胆に剪定する まはた 撤去する

・「窓の外側が土埃で汚れていた」
→窓の清掃頻度をあげる

上述の事例は問題の規模がとても小さく、学生でも理解できると思います。

次に、学生であってもそれが大きな問題だと認識でき、かつ、企業経営にとっては致命的となる例を出します。それは「会社が大赤字」という問題です。

まず、「会社が大赤字」という問題は、その悪影響を具体的に確認するまでもなく、営利を追求する株式会社としては、それ自体が、いわば自明の理として、明らかに大問題なので悪影響の確認をする必要はありません。

しかし、この問題を分解することなく対応策を立てようとすると、一般でよく見かけるように(特に大企業で見かけるように)、「新入社員の採用をすべて停止する」「全部門一律で経費を削除する」「リストラをして人員削減をする」「高収益の子会社を売却しその益を回す」などの対応策を打つことになるでしょう。

たしかに、これでひとまず倒産を回避することができます。しかし、問題そのもの(会社が大赤字)を分解していないため本質的な「原因」は掴めておらず、したがって原因ごと(つまり問題構成要素ごと=小単位の問題ごと)の対策は打てていません。

「会社が大赤字」という問題を分解すれば、たとえば「魅力のある広告宣伝ができていない」「新規製品開発に力を入れていない」「製造過程の詳細な分析ができていない」「事務部門の職務分析がされていない」「セールス部門の販売力向上のための研修内容が陳腐化している」等、様々な原因が仮定できます。

もしこうした原因があるにもかかわらずそれらを一切把握せずに、「新入社員の採用を停止する」「全部門一律で経費を削除する」「リストラをして人員削減をする」「高収益の子会社を売却しその益を回す」などの対策を行い一時的に倒産回避ができても、再び赤字に陥る可能性が大きいでしょう。また、赤字になる度にこのような対応をしていては、その企業は弱体化していくばかりです。

だから、日頃から、各部門、各部署、各現場単位で、細やかに問題に対応しておき、大問題とならないようにしておくことが肝要です。特に大企業にとっては、社長や役員が具体的に把握できる事は限られているだけに肝要です。

なお、分解された小単位の問題(=問題構成要素=原因)には、それを生む複数の原因がある可能性があります。だからその原因も洗い出してみましょう。また、さらにその原因の原因もある可能性がありますので、それも洗い出してみましょう。こうしたプロセスを通して問題を徹底的に分解し、それぞれの要素ごとに対策を検討することが大切だ、と私は思います。

こうした緻密な取り組みは、いわば「シラミ潰し」のような取り組みと言えます。日々のシラミ潰しの積み重ねが、「会社が大赤字」といった事態の回避につながるのです。裏を返せば、「会社が大赤字」となってからでは、諸原因をシラミ潰しするには時間的余裕がなく手遅れになる、ということです。


<備考>

以上が、問題を分解することに関する私(蒔苗)個人の見解です。しかし、世の中には、私の見解とは真逆の見解を以って問題解決を図るコンサルタントがいらっしゃいます。つまり、シラミ潰しに対策を打つのではなく、様々な問題の共通原因(根本原因)をインタビューや調査等によって掴み、その共通原因(根本原因)に対する対策を打ち、全社の体質を一気に改善するという方法です。

私はこの方法は行いませんが、この方法を否定しているというわけではありませんので誤解なきよう。その企業の現状次第では、共通原因(根本原因)に対する対策を打つことを優先すべき場合があろうかと思います。

ですので、シラミ潰し型か、それとも共通原因(根本原因)対策型か、どちらの型が現在の貴社の状態に適しているか、慎重に選択して下さい。もしこの選択に悩み、どちらを選択すべきか外部者に相談する場合は、私ではなく、共通原因(根本原因)対策型のコンサルタントへして下さい。その理由は、私は共通原因(根本原因)対策型のアプローチの具体的な手法を知らないこと、および、共通原因(根本原因)対策型のコンサルタントはシラミ潰し型をその短所とともに理解した上で共通原因(根本原因)対策型の方法を提唱していること、の2点となります。

ちなみに、私のシラミ潰し型の短所は、・一気に全社を改善することは不可能 ・いわゆるイノベーションを起こすことは不可能 ・風土改善・意識改革等を行うことは不可能 ・社員モチベーションの向上を主眼にしていない ・すべてのシラミを潰そうとするならば相当の時間が掛かる、等です。

 


<ポイント>

・「問題」の「原因」を掴み、「原因」と「悪影響」の関係を「遮断する」もしくは「悪影響」の度合いを減少させること。

・問題の構成要素ごとに「原因」を掴むことで、正確な対策を立案できる。

・問題を分解しないまま対策を考えても、正確さに欠く対策しか立案できない。

・問題構成要素=原因=小単位の問題

・日頃から、各部門、各部署、各現場単位で、細やかに問題に対応し、問題が総合化され大問題となるのを避けること。


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