問題解決アプローチ010

講師:蒔苗昌彦

原因除去だけに囚われないように!

さて、「問題」「原因」「悪影響」「遮断」の関係について複数の事例を既に出しながらも、原因を取り除くこと(以下、「原因除去」)について事例をまだ出していません。実は、それには理由があります。その理由とは、、、
「原因を除去することだけに囚われてはならない」
との注意喚起をしたいからです。

当研修の引き受け条件に記載してある通り、当研修は、専門情報・知識・技術が十分揃っているにもかかわらず問題解決が停滞している場合に行います。この条件のもと当研修の題材として出された「問題」は、かなり重要かつ複雑な問題)であるはずです。(以下、「重要複雑問題」と略)なぜならば、このような重要複雑問題が「原因除去」という最も簡単なアプローチだけで解決できる可能性は極めて低く、だからこそ問題解決行動が停滞していると思われるからです。裏を返せば、もしその問題が「原因除去」だけで解決できるレベルならば、貴社は、私のような社外講師を探したりこのWebサイトを見たりするまでもなく、すでに自力で問題を解決していることでしょう。

が、もし、貴社の問題解決担当者が、「問題は原因を取り除くことによってのみ解決する」と思い込み、原因除去のみに囚われているならば、重要複雑問題は解決しないでしょう。なぜならば、自明の理となりますが、原因除去のみで解決するレベルの問題は、重要複雑問題には成り得ないからです。

誤解なきよう申し上げますと、原因除去というアプローチがいけない、と言っているのではありません。原因除去だけで問題が解決するのならば一番簡単で万々歳です。しかし、諸技術は日々益々高度化、グローバルな競争も激化の一途、そうした中、企業において解決すべき問題が、原因除去だけで済む問題ばかり、というわけがありません。それにもかかわらず、どんな場合でも「問題は原因を取り除くことによってのみ解決する」と思い込んでいては、企業の発展は止まってしまいます。だから、ぜひとも、問題の原因除去だけに囚われず、悪影響の遮断、悪影響の減少、というアプローチも忘れずに問題解決に取り組んでください。

なお、「原因除去」が可能な場合、たとえ学生でもすぐその方法は気づくと思います。が、念のため、その形式を例示すれば、、、
・問題:部屋が暗い 原因:電球が切れていた 原因除去の方法:電球を交換する
といった形式です。

逆に、「原因除去」が不可能な場合、別項であげたガソリンエンジンの事例を用いて示すならば、次のようになります。この事例においては、「問題」は「(開発者の立場からすれば)そのままでは商品化できない」、「原因」は爆発(爆発音)、「悪影響」は「うるさい」で、原因除去は不可能、でした。なぜならば、シリンダー内の爆発あってこそ大きな動力を得ているからです。もし原因除去のみに囚われていれば、原因除去しようがないわけですから商品化を断念しなければなりません。しかし、開発者は「うるさい」という悪影響を、消音装置(正確に言えば「減音量装置」ですが)にて外に漏れる爆発音を小さくするという「悪影響減少」の対策を講じ、「そのままでは商品化できない」という問題を解決しました。つまり、「原因除去」はせずに問題を解決したのです。

ちなみに、労働基準監督官による労災防止の講義等にて語られる「将棋倒しの途中のコマを抜く」というアプローチが示唆しているように、原因から事故・災害までの流れを、素因→きっかけ→促進要因→事故→災害と時系列で見ることができるケースがあり、このケースにおいては「きっかけ」or/and「促進要因」というコマを取り除けば事故に至りません。このコマを取り除く行為は「原因除去」に該当します。このコマが取り除くことができない場合は、事故と災害の間に楔(くさび)を打つ対策を講じましょう。どうしてもその対策が立てらない場合には、事故による悪影響の度合いを減少させる対策を講じましょう。


<ポイント>

・「原因除去」だけで問題が解決するのならば万々歳。

・しかし、重要複雑問題が「原因除去」という最も簡単なアプローチだけで解決できる可能性は極めて低い。

・原因除去のみに囚われているならば、もしそれが重要複雑問題であった場合には、それは解決しないであろう。

・「悪影響の遮断」「悪影響の減少」というアプローチも忘れずに。


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