ヒューマンエラー 第37話

<安全教育用推理小説>

狭くもないが広くもないブースは、人で埋まった。

K君への作業依頼は、事業部長が即了承し、自ら施設運営部長へ電話を掛け手配した。依頼の詳細は、ブースにて説明したほうが早いということになった。また、事業部長は自身の目で画像を観ることを欲した。

小会議室の全員はバンで管制情報室へ移動し、そこへ施設運営部長と管制情報室長も加わり、K君も含め8人もがブースに入った。が、ブースの仕切り板は透明だし、天井は高い。息苦しいとは感じなかった。

挿絵制作:アイデアファクトリー株式会社

発注会社の人たちに取り囲まれ、K君は初め少し緊張した。しかし、彼ならではの粘り強い好奇心が、緊張を抑えたようだった。ライド運営部長による一回の説明で依頼内容をよく理解し、さっそく作業を開始した。

まず、事故前、まだ順調に運行されている時の、最終待機区画の様子をモニターに写し出した。そして、腰抜けジェットを送り込もうとする時点まで早送りした。

「あっ、そこそこ!」というマネージャーの声で停止させると、14時00分50秒だった。K君はその時点をコンピュータに記憶させてから、続きを再生した。

合計4台のジェットを慌ただしく送り込む『最終確認係』の姿。

ブースの中は、静まり返った。

「その辺りでもういいかな・・・」というマネージャーの声で停止させた。14時03分を越えていたが、とりあえずK君は、その時点をコンピュータに記憶させた。

もう一台の液晶モニターを立ち上げたK君は、会話文が記述された画像を写し出した。ヘッドセットフォーンの音声記録をコンピュータが聞き取り、文字表示へと変換したのだ。その左横には、時刻表示の列を挿入した。そして、スピーカーを接続した上で、00分50秒から03分過ぎまでを、音声とともに再生した。全員が息を潜め、聴きいった。

会話の内容は、各係へのインタビュー結果と符合していた。

『モニター係』が、管制情報室の当番デスクへ内線電話にてコンピュータ異常の有無を問い合わせた際の会話も、『モニター係』の声だけとなるが、録音されていた。

K君はさらにもう1台のモニターを立ち上げた。departure inhibit とdeparture habitが羅列された画像が写し出された。K君は手際よく加工し、作動項目が時刻とともに反転表示するようにした。その上で、合計3台のモニターの表示

がシンクロするように設定した。

「できた、できた。ようし! じゃ、見て下さい。スタート!」

K君はキーボードのリターンキーを、ぱん、と、音をたてて叩いた。

90秒。その間にすべては起きた・・・

記憶能力にはかなりの自信がある私でも、小数点以下の表示は覚えていない。だが、ブースにいた全員の見解が完全に一致したことは、各人の細やかな表情まで含め、一年経った今でも鮮明に蘇る・・・

小会議室に戻った。そして、再発防止対策について話し合った。

施設管理部長と管制情報室長も、ブースにK君を残して本部ビルへ移動し、参加した。様々な観点から数多くの意見が飛び交った。メモを取るのは大変だった。だが、入社して初めての、そして最後の熱気に包まれ、時間はアッという間に過ぎた。

意見が出尽くし解散した時は、もうバトル花火の時間だった。本部ビルにもその音は大きく響いた。

さらに私は小会議室に残り、課長に読み合わせを手伝ってもらいながら、明日の資料を作成した。雑かもしれなかったがどうにか終え、24時過ぎにタクシーで帰宅した。


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