パート1・セクション2「職務分掌マニュアルのあり方・結論」

職務分掌マニュアルのあり方・作り方・使い方

職務分掌マニュアルのあり方について、次に私の結論を述べる。

2‐1「規定として位置づけること」

“人”は自分が就いた職務について、その人が勤勉である限り、「どのような責任を負うのか/どのような権限を持つのか」「作業をする上で何か取り決めがないか/手順はどうなっているのか」といった観点から関心を持つ※1。そのため、職務に就く“人”を軸として責任・権限・作業規定・手順を記述してある文書があれば、その関心と合致し、文書がないのに比べたら、仕事の理解・習得が早い。

当講座では、「職務ごとに定められた役割分担と作業規定」を“職務分掌”と呼ぶ。
そして、職務ごとに定められた役割分担と作業規定を記載したマニュアルを、「職務分掌マニュアル」と呼び、それを規定として位置づけるべき、と私は判断する。

ただし、全社員・全職員や全管理職等が同じ方法にて行う必要がある事を伝えるマニュアルは、話が別となる。これらは職務の種類に関係なく皆が共通して行うべき事柄が記載されているマニュアルとなるため、いわば「共通マニュアル」として位置づける。たとえば、集客施設における火災発生時の対応手順を記載したマニュアルなどがその典型である。その他には、人事制度の運用方法を管理職に伝えるためのマニュアル、グループウエアの使用方法を記載したマニュアル、伝票類の記入方法を説明したマニュアル等が、共通マニュアルとしてあり得る。

なお、ここでいう“人”とは、「蒔苗昌彦」のような特定の人格を指すのではない。集団の単位である組織や部署に対し、個の単位として設定する不特定の人(1人単位の人)のことである。たとえば電車運転士や旅客機の機長のように、職務は同一だが、複数の“人”が同時に稼働している場合があり、その場合には、1人単位の人の数が多い、という状態になる。

 

2‐2「迅速に改訂できること」

職務分掌マニュアルは、改訂の必要性が発生した際、迅速に改訂できる形式・仕様とすべきである。なぜならば、迅速に改訂できないと、たとえば次のような問題が発生するからだ。
・古い情報に従ったまま作業を行う人がいて、業務に支障が出る。
・そのマニュアルに対する信頼性が低下し、実際の職務を担当する者が別途、新たに独自のマニュアルを作成してしまう状況となり、その結果、二重の基準(ダブルスタンダード)が設けられてしまう※2。

 

2‐3「極力簡素なレイアウト・デザインとすること」

職務分掌マニュアルは、レイアウトやデザイン等を極力簡素にすべきである。つまり、凝ったレイアウトやデザイン等は避けるべきである。なぜならば、凝ったレイアウトやデザインの文書は、簡素なレイアウトやデザインの文書に比べて、改訂作業により多くの時間を要するから。

多くの人がワープロやDTP等を使いこなす時代、「ちょっとした手間で済むのだし、レイアウト・デザインに時間を割こう」という意見をよく聴くが、迅速な改訂が必要な職務分掌マニュアルにおいては、受け入れられない意見である。この「ちょっとした手間」が、改訂の足手まといとなる。※3

また、いったん紙ベースで作成し、その後電子版として運用しようとする際も、簡素なデザインのほうが都合がよい。

 

2‐4「職務分掌マニュアルを統括管理する職務を設けること」

以上を実現するために、職務分掌マニュアルを管理する職務を継続的に設け、統括すべきである。なぜならば、そうしないと各部署がバラバラに作成することになりかねず、形式・仕様の統一を図ることができないからだ。

しかし、これは一番の理由というわけではない。一番の理由は、職務分掌マニュアルは組織運営の上で重要な情報伝達手段であるため、そもそも全冊掌握される情報媒体であり、もし掌握されていないようであれば、それは根本的に誤っているから、である。

では、本当に、職務分掌マニュアルは重要な情報伝達手段なのか?

そう確信しているからこそ当講座の講師を担当しているので、私としては重要なものは重要なものとする以上の説明できない。が、世間一般においてどうなっているかと言えば、たとえば企業不祥事の際に社長が記者会見を行う様子をテレビで見かけると、必ずと言ってもいいほど、再発防止策としてマニュアルの整備・徹底を発表する。また、不祥事の原因・責任が追求される局面においても、マニュアルの有無、内容の適正さ等が報道の表舞台に躍り出る。警察も当然、最も重要な証拠としてマニュアルを押さえるだろう。もしも、不祥事を起こした会社が、不祥事に関連するマニュアルを慌てて破棄したら証拠隠滅となり罪は一層重くなるだろう。

また、「職務分掌」は以前から存在し認め続けられてきた概念である上、近年はコーポレートガバナンス、企業統治の上で重視されている概念であり、経営セミナー等に参加しても耳にすることがある。

こうしたことからも、「職務分掌」と「マニュアル」の両方の要素を併せ持つ「職務分掌マニュアル」は重要な情報伝達手段と判断してよかろう。


※1:
皆がいつでも自分の職務に強く関心を持つわけではない。だから、「その人が勤勉である限り」という文言を挟んだ。裏を返せば、或る人を雇用し、その人が就く職務の職務分掌マニュアルを渡して、全然読まなかったり、斜め読みしているようであれば、その人の職務への関心が低い、つまりその仕事に対するモチベーションが低いこと、もしくはその人は元来不真面目であることが露呈する、というわけになる。

※2:
或る人と別の人で基準や物事の解釈が異なってしまうわけだから、ダブルスタンダードがあると組織・業務が混乱する。その結果、大惨事を招くこともある。が、他種の規定類や職務分掌マニュアルであっても、改訂されるべき時には改訂されるべき。だから、この話は職務分掌マニュアルに限った話ではないわけである。

※3:
業務用・自家用であってもレイアウト・デザインに凝ろうとする動機は、「そうしないと読んでもらえないのでは?・・・」という作り手側の懸念から起きると思う。この気持ちは分からなくはない。しかし、すみやかに仕事の方法を習得して実践しようと思っている業務最前線の人にとってみれば、デザインが凝っていることよりも、デザインが簡素のほうが読みやすいのが現実である。ましてや、改訂の足手まといとなるのだから、凝ったレイアウトやデザイン等はやはり避けるべきである。


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