パート2・セクション8「規定手順書の作成」

職務分掌マニュアルのあり方・作り方・使い方
8‐1「基本的な考え方」

作業手順書は、「a.規定作業」と判定した作業について優先的に作成する。規定作業についての手順書を、「規定手順書」と呼ぶ。

規定作業とは、前述のように「組織があらかじめ定めた取り決めに従い行う作業」のことである。したがって、規定作業と判定しておきながら規定書がない状態は、あってはならない状態となる。
それゆえ、その作業の方法を規定化したくても、結果的に文章が作成できない場合には、扱いを「b.随時指示作業」または「c.委任作業」へと変更する。
ともかく、「これは規定作業であるが、作業を規定する文書は存在しない」という状態は避けること。

作業手順に限らず、規定がどこまでを規定しているのかと言えば、「記載されている通りのこと」を規定していることになる。
作業者は、規定として記述されていることを守る義務が課せられる。が、記述されている内容と矛盾しない限り、記述されていない行動や動作を、作業目的を達成するためや良い結果を出すために、自らの判断で行うことは可とする。

【注】規定手順書の形式のサンプルは、別講座「作業手順書:書式サンプル『火災対応』」に掲載しているので、そちらを参照のこと。

 

8‐2「作業手順書の形式」

手順の記述は、作業者を主体に固定した上で、一連の行動・動作を時系列で箇条書きした、チェックリスト形式とする。
この方法は、作業の期間・時間の長短に関わらず、あらゆる作業は、ステップ・バイ・ステップで進めていくもの、との仮定に基づく。

手順書を作成する際のポイントは、行動のステップを中心にすべきか、動作のステップを中心に現すべきか、それを判断した上で記述すべきことである。なぜならば、行動と動作が混在しないように手順書化したほうが、理解しやすいからだ。
実際には、ある一つの作業に関し、行動と動作の両方を規定化すべき場合もあろう。こうした場合でも、行動と動作の比率に大差があれば、混在していても、さほど判読しずらくはない。

しかし、両者の比率が大差ない場合には、まず行動レベルの手順に的を絞って手順書化する。余白の有無に関係なく、それだけで1ページの手順書として扱う。
その後、この行動レベルの手順を観て、その中のどのステップについて、動作レベルに分解し手順書化すべきかを判断する。次に、その対象となったステップ(行動のステップ)を動作レベルのステップに分解して手順化し、独立した作業名称を命名する。これも、余白の有無に関係なく、これだけで1ページの規定手順書として扱う。

そして、冊子化の際には、前者の次ページに後者を配置し、前者の「註」へ、前者のどのステップについて動作レベルの手順を規定しているのか・どこに記載されているのか等、分かるように記述しておく。

出来上がった手順書には、そのページの本文冒頭に、必ず、「規定」であることを明記しておく。次セクションにて説明する「参考手順書」と文章形式が同じだけに、一見して、「規定手順書」と「参考手順書」の違いが分かるようにするためだ。具体的な方法としては、ページの右肩に大きな文字で「規定」と目立つように記すと共に、手順の冒頭に「下記の手順を規定する。ついては、下記に従うこと。」等の一文を入れる。

規定された行動・動作に、規定ではない行動・動作が混ざった手順を記述する場合には、規定された行動・動作の行の冒頭に、★印等の目立つ印をつける。そして、手順の冒頭に「★印がついた行が規定。それ以外は参考情報。」等の一文を入れておく。その上で、ページの右肩に「規定」と記し、規定としての手順書として扱う。

【注】規定手順書の形式のサンプルは、別講座「作業手順書:書式サンプル『火災対応』」に掲載しているので、そちらを参照のこと。


8‐3「手順の他に規定化すべきことの文章化」

ある作業について、手順書を作成した後、手順の他に規定化すべきことが有るか否かを判断する。
有ると判断した場合は、それが文章で表すことができるか否か(もしくは文章形態が適切か否か)、判断する。文章で表すことができると判断した場合(もしくは文章形態が適切と判断した場合)は、それを箇条書きの文章にて記述する。そして、それを手順書の中に記述する。

なお、「社員全員や部員・課員全員に関わる規定」や、「その職務を遂行する上での規定ではあるものの、作業ごとに個別に設定される規定ではない規定」などは、ここでは対象としない。
これらの規定は、全般的な規定として扱い、個々の作業の規定としては扱わない。


8‐4「文章で表すことができない場合」

規定であっても、文章で表すことができないと判断した場合(もしくは文章形態は不適切と判断した場合)と判断した場合は、文章形態以外の表現方法、たとえば図表や帳票等で表すことになる。
その場合は、作業名称を記した「作業手順書」を作成し、規定についての概略的な説明を記した上で、「具体的な内容は、資料パートの資料-5を参照。」というような形で記し、所在を明らかにする。

一つの作業について、「文章」に「文章以外の表現形態の情報」を組み合わせて表すべき場合もあるだろう。その場合も、「手順書」の「註」へ、組み合わせた「文章以外の情報」の所在を記述しておく。


8‐5「註の活用」

手順書には、各ページの下段に、必ず「註」の欄を設ける。手順書を作成する段階で、註に記すべきことが思い当たらない場合であっても、欄だけは設けておく。
なぜならば、検証や改訂の中で、註として加えるべき情報が発生する可能性が高いからである。

この「註」の欄は、一般の書物における「註」と同様の位置づけで、本文に対する補足情報全般を提供するために設置する。
ただし、この「註」の欄には、文章以外の情報は入れてはならない。文章以外の情報(たとえば、図表や帳票、写真等)については、あくまでも「資料」のパートに記載する。「文章以外の情報」を手順の補足としたい場合や、「文章形態以外の情報」を規定として示す場合、註には、その情報の所在を記述するに止める。

【注】規定手順書の形式のサンプルは、別講座「作業手順書:書式サンプル『火災対応』」に掲載しているので、そちらを参照のこと。

 

8‐6「プロジェクト進捗に応じた対応」

手順書の作成を進めていく中、「手順書を作る前の段階では規定化すべきと判断したものの、実際に作ろうとしてみると、その必要性がないことや、規定化することによって不都合が発生すると予想されるケース」が発生する可能性がある。その際には、委任判定を、「b.随時指示」または「c.委任」へと変更する。

もし、いったん規定手順書を作ってみた後に、そこに記される手順を、規定から参考情報へと変更する場合は、その手順書を破棄せずに、「参考手順書」へと扱いを変える。

たとえ参考手順書としてであっても、それを提示することによって不都合が発生すると判断する場合には、冊子化の対象(つまり正式発行の対象)から外す。
また、規定手順書を作ってみた後に、その作業を規定から随時指示へと扱いを変更することになった場合には、「随時指示を行う側の職務(管理職や専門部署の担当職務)」の職務分掌マニュアル管理担当者へ手順書を引き渡し、その扱いを委ねる。

 

【補足講座】「作業手順書の書式サンプル」

 


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