パート3・セクション1「職務分掌マニュアルの最も有益な使い方」

職務分掌マニュアルのあり方・作り方・使い方

職務分掌マニュアルの最も有益な使い方は、「業務改善のための情報伝達ツール」として使うことである。職務分掌マニュアルが業務改善ツールとして使われていれば、パート1・2で重要性を強調した改訂管理が当然実行される。「職務分掌マニュアルの改訂管理が実行されているという状態は、業務改善の証しだ」と言い換えることもできよう。

逆に、「業務改善のための情報伝達ツール」として使わないのなら、職務分掌マニュアルのメリットは著しく減少する。このような状態では、職務分掌マニュアルの改訂管理も停滞する。

この私の考えを聞き、「仕事の役割、方法を伝えることができるのだから、たとえ業務改善に利用されなくても、それなりにメリットがあるのでは?」等の意見も出てくると思う。もちろん、仕事の方法を伝えるのは職務分掌マニュアルの主要な機能だ。しかし、職務分掌マニュアルを業務改善に使わない場合、つまり職務分掌マニュアルと業務改善がリンクしていない場合、この機能は発行後しばらく経つと鈍ってくる。いや、鈍るどころか、重大なデメリットをもたらすことがある。

それはなぜか?

多くの場合、業務の環境は変化する。変化の原因は様々で、たとえばテクノロジーの進歩、法改正、競合他社の出現、市場や商圏の変化、顧客要求の変化、経営戦略の変更、参考情報の更新、当初予想されなかった不具合・不都合の出現、等々である。

これらの原因によって起きる環境変化に対応するためには、一度定めた役割分担・作業手順であってもそれに固執することなく、最適な役割分担・作業手順へと改訂する必要性がある。もし、改訂せず放置しておけば、安全性が低下し事故が発生したり、競合他社に市場を奪われたり、顧客に見捨てられたり等々、デメリットが降りかかる。

職務分掌マニュアルの発行によって、一時的には最適な仕事の方法を伝えることができたとしても、業務改善のツールとして使わなければ(つまり改訂管理がされていなければ)その職務分掌マニュアルは徐々に陳腐化していき、それでも職務分掌マニュアルに従い続けている人の行動・動作は陳腐化してしまう。また、環境変化に敏感な人は自己流のマニュアルを別途作成したり、職務分掌マニュアルという方法自体を否定する。そうこうしているうちに、上述のようなデメリットが降りかかってくる。

私がパート1・2にて「改訂管理されていない職務分掌マニュアルがあるぐらいならば、ないほうがまし」とまで言い強調したのも、こうした考え方を背景に持つからである。

ちなみに、以前、この自分の考え方が偏っていないものか、弁護士に訊いてみたことがある。すると、マニュアルは業務上の重大な証拠文書との観点から、「マニュアルを作らずに業務運営をした結果、事故を起こせば、その点を追求されるだろう。だが、内容が不適切なマニュアルに起因して事故が起きれば、前者以上に厳しく追求されるだろう」との答えで、「変なマニュアルがあるぐらいなら、マニュアルがないほうが弁護しやすい」と語っていた。

さて、冒頭を除きネガティブな話を長く続けたが、再度反転して職務分掌マニュアルの最も有益な-使い方を最終確認すると、それは、、、

「職務分掌マニュアルを業務改善のための情報伝達ツールとして使った場合に、業務改善に向けた具体的な方法が組織内で共有されること」

なのである。これはいわば「ナレッジ・マネジメント」である。組織運営上、ナレッジ・マネジメントはとても有益である。いや、もしナレッジ・マネジメントができないのならば、組織を組むのはやめ、個人の同盟体としたほうがまし、とまで言えるほどだ。
この観点から、職務分掌マニュアルは、複数の人間が集まり組織活動することの優位性が発揮されるための一条件、と言える。


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