パート3・セクション2「その他の使い方やメリット」

職務分掌マニュアルのあり方・作り方・使い方

以下、その他の諸メリットを列挙する。が、これらも全て、職務分掌マニュアルの改訂管理がちゃんと行われていることが前提となる。改訂管理が行われていなければ、すべてのメリットは消失する。


2‐1「新人教育がやりやすくなる」

新人教育は、入社時点で本部が全社共通で行う基礎教育と、配属直後に行われる現場の実務教育に分けることができる。ここでいう新人教育とは、後者のほうだ。これには、新社会人の若い新人を対象とした教育のみならず、他の職務から人事異動によって配属され、未経験職務の習得のために実施する教育も含まれる。

職務分掌マニュアルがない職務において新人教育を行う場合は、職務遂行の仕方について教えてくれるトレーナーなり先輩なりの口頭による説明・指導等と、本人の職務の実体験がその教育方法となる。もちろん、その職務に就く人の基礎能力が適合してさえいれば、この二つの方法だけでも事足りる職務は多くあろう。

だが、中には、職務分掌マニュアルがあったほうが教育しやすい職務、職務分掌マニュアルがないと教育しようがない職務等がある。
特に、安全管理上、他者との連携で業務を運営する必要があり、かつ、高度な技能によって緻密かつ手際のいい対応を必要とする職務ほど、新人教育に職務分掌マニュアルは欠かせないと思う。


2‐2「異動時の引き継ぎがしやすくなる」

人事異動を経験した人ならば理解頂けるであろうが、辞令が出てから実際の異動を終えるまで、そう長い期間は与えてもらえない。心情的には、「次はどんな職場かな?」「嫌な奴はいないかな?」「新しい仕事、難しくないかな?早く覚えることができるかな?」などと、そわそわする。そのため、自分の後釜となる人(つまり自分が今まで就いていた職務を引き継ぐ人)までもが、人事異動で新職務に就く場合に、慌ただしい引き継ぎとなってしまうだろう。

しかし、この場合の引き継ぎとは、前項の新人教育と同格であり、本来ならば、育成観点からじっくりと指導すべきである。こうした時、せめて職務分掌マニュアルがあれば、慌ただしい引き継ぎの弊害を軽減してくれるだろう。

だが、この話は、あくまでも、職務一種類あたりの総要員数が一人のケース。総要員数が複数の場合には、人事異動の対象とならず引き続きその職務を続ける人から教えてもらうことができる。また、総要員数が多数の場合には、トレーニングセンターの専任インストラクター等が教育してくれる体制ができているだろう。もっとも、こうした職務では、標準化の必要性から、すでにマニュアルが存在する可能性は大きいと思う。


2‐3「標準化がしやすくなる」

昨今、“標準化”という言葉を持ち出すと、すぐISOの話へと流れてしまうことが多いが、ISOに関係なく標準化すべきことは色々とあるはず。だから「ISOを導入するから標準化を行う。導入しないから標準化は行わない」といった観点は避け、「そもそも標準化が必要か否か」という観点で、業務の改善に取り組むべきである。
その際、職務分掌マニュアルがあれば、その中で、規定作業と判定した作業はすなわち標準化されることになり、随時指示作業・委任作業とした作業はすなわち標準化されない、という形で、より緻密に標準化ができる。

ISOはマニュアルの形式を具体的に指定しているわけではないので、当講座の方式によりなされた標準化であっても、審査員の理解さえ及べば、認定してもらえると思うがいかがだろうか? 私は、ISO14001の審査員になるための一要件となっている審査員養成の研修は正式に卒業したが、毎年の登録費用がもったいないので審査員登録はしておらず実務的には推察の域を出ないが、たぶん大丈夫だと思う。


2‐4「打ち合わせがしやすくなる」

突然、エンターテイメントの話になってしまうが、受講者の皆さんは、「アポロ13号」という映画をご覧になったであろうか?

「フィラデルフィア」と「フォレストガンプ」でアカデミー賞主演男優賞を二年連続して受賞したことになるトム・ハンクスが主演。事実に基づき製作されたエンターテイメント映画である。

1970年4月に発射された有人探査機アポロ13号は、月に向かう途中で液体酸素タンクが損傷する事故に遭い、月面着陸というミッションを諦め、そのまま地球に帰還せざるをえなくなる。電力低下、生命維持装置の不具合、軌道のズレなど危機が次々と襲うものの乗り切り、3人の宇宙飛行士は全員無事に帰還を果たす。

さて、この映画の中で、地上にある飛行管制センターとアポロ13号船内の宇宙飛行士が、危機への対処方法について具体的な手順を無線で打ち合わせるシーンがでてくる。地上に設置してあるシミュレーション機(アポロ13号に実装してある機器と同じ仕様)で手順を試した上、それをアポロへ伝達するシーンもでてくる。

エンターテイメント映画である以上、事実に基づく製作とはいえ演出上事実と異なるシーンも多々あろう。が、そもそも手順とは行動・動作の時系列であり、この原理は演出の度合いには左右されまい。

職務分掌マニュアルの主要情報である作業手順書の形式によって、行動・動作を分析し記述し判読することに慣れている組織では、アポロ13号のように危機的状況下、遠隔地と打ち合わせをする際であっても、落ち着いて実作業の打ち合わせができるはずだ。
逆に、作業手順書に不慣れな組織は、危機的状況どころか平常時であっても、遠隔地どころか目の前に居る人との間であっても、打ち合わせの効率が今ひとつとなろう。


2‐5「実務の評価が明瞭となる」

どこの組織においても、人事制度の運営には苦労していると思う。苦労のタネは、なんといっても総人件費のコントロールであろう。が、人事考課の基準の設定の仕方も苦労のタネになっていると思う。

詳しくは、フリーWebカレッジのコース000070で述べるが、私は人事考課を、能力考課と実務考課の二本柱とし、前者を昇級に反映し、後者は賞与に反映することを勧めている。そして、実務考課の対象を、各人の「職務」「チャレンジ課題」「予定外の仕事」とし、これらを総合的に観て考課を行うことを勧めている。

この仕組みを前提とすれば、職務分掌マニュアルがあれば、それに掲載される「作業項目一覧表」により職務内容を具体的に確認できるので、実務考課がやりやすくなる。考課者(上司)が被考課者(部下)と面談する際も、「この作業は上手にこなしているが、その作業はまだだから、頑張ってね」というようにして、具体的な確認ができる。

なお、職務分掌マニュアルは導入しないものの、私が提唱する人事制度を導入する組織は、「作業項目一覧表」だけ全職務について作成をする必要がある。


2‐6「暗記の手間が減る」

人間、毎日のように反復して行う作業は、忘れようとしても忘れられないほど、身に付くものだ。その場合、作業の都度、職務分掌マニュアルを見る必要性はない。
一方、たまにしか行わない作業は、すっかり手順を忘れてしまったり、間違って覚えていたりする。正しく覚えてようとすれば、そうとう暗記を積まなくてはならない。
しかし、職務分掌マニュアルがあれば、たまにしか行わない作業に関しては、作業の前に職務分掌マニュアルで手順を確認したり、職務分掌マニュアルを見ながら作業をすることができる。それにより、手順を暗記しておくべき作業を除き、暗記の手間が減る。


2‐7「創意工夫を促進する」

職務分掌マニュアルでは、職務を構成する作業について、一つひとつ委任判定をかける。それにより「委任作業」と判定された作業は、作業者へ、作業の方法を全面的に委ねる。委ねながらも、作業の目的を達成することは当然要求する。となると、作業者は、目的を達成するために創意工夫せざるをえなくなる。

世間一般では、「マニュアル人間」とか「指示待ち人間」という言葉が出回っている。前者は、いわば機械的に仕事し創意工夫をしない人間を指しているようだ。後者は、指示があるまで何もせず創意工夫も自発性もない人間を指しているようだ。

職務分掌マニュアルを導入すれば、委任判定の結果により「規定作業」と決めたら規定通りに、「随時指示作業」と決めたら指示通りに、そして「委任作業」と決めたら自分で創意工夫をしてでも成果を出す、という職務の構成が明確となる。しかも、たとえ「規定作業」であっても、不都合・不具合等に気がついたら改訂申請を行う義務があり、その際の改訂案作りにも創意工夫が必要となる。したがって、いわゆる「マニュアル人間」や「指示待ち人間」という言葉を用いなければ人物評定をできないような状態から脱却することが可能となろう。


<次のページへ>

<目次に戻る>


 <講座の補習授業について>