<安全教育用推理小説>
90秒。その間にすべては起きた・・・
断片的な事実。これらの組み合せで全体を想像しても、結局、真実は仮説のまま、人々の記憶から薄れていく。だが、いつの日か、形を変えて突如出現し、無数の命を一瞬にして奪う・・・
大事故のニュースを突きつけられ、はたと予感が符合した。一年前、せめて叔父に調査結果を報告しておくべきだった。
いや・・・
たとえ報告したとしても、刑事という叔父の立場上、あの時点ではどうしようもないはずだ。一年前の出来事はあくまでも労働災害で、それは労働基準監督署の管轄なのだから・・・
唯一の救いは、ついさきほど、被災者A子さんのご両親から手紙が届き、彼女が年内にも結婚すると知ったことだ。嬉しかった。彼女はその強い意思で降りかかった災害を乗り越え、幸せを掴んだのだ。A子さん、おめでとう。ほんとうにおめでとう!
これで区切りがついた。関係者の名を伏せさえすれば、A子さんの労災について詳述してもよかろう。
しかし、その場所は隠しようがない。無数の死傷者を出した先週の大事故と同じ、巨大遊園地「バトル遊園」の超人気ローラーコースター「バトルジェット」だからだ。
それだけに、これから語る事に対する社会的責任はとても大きい。だから私の名は隠すまい。樫見亜子(かしみあこ)である。当時は、親戚や友人のみならず、上司となってまだ一ヶ月たらずの課長にも、アッちゃんと呼ばれていた・・・