講師:蒔苗昌彦
■或る対策が別の問題を誘発しないか検証しよう!
問題解決のための或る対策が別の問題を誘発してしまうことがないか、検証する必要があります。そのことは、誰でも理解でき、誰もが反対はしないでしょう。
この検証行為は、言い方を変えれば、立案した対策に短所がないか予想する、とも言えます。或る対策が別の問題を誘発するかもしれないと予想したら、予想される問題への対策を立案し、元々の対策と合わせて提案しましょう。が、もし別の問題への対策がない場合には、「元の問題」を「予想される別の問題」と比較しながら次を選択します。
・別の問題が発生したとしても、元の問題を解決する
・別の問題が起きることを避けるため、元の問題の解決を断念する
「元の問題」と「別の問題」は、問題の特性が異なる場合が大抵でしょうから、両者を単純比較してどちらが大きいか小さいかという判断は難しいでしょう。また、ケースを特定しない限り、具体的な説明はできませんが、一般論的には、少なくとも、法律上の観点から「元の問題」を何がなんでも解決しなければならない場合には、「予想される別の問題」が法律に反せず安全衛生が確保できる限り、「別の問題」の発生を承知の上で、「元の問題」への対策を講ずることになるでしょう。逆に、「元との問題」が法律と安全衛生上の問題ではなく、「別の問題」が法律と安全衛生の問題となる場合には、「元の問題」の解決を断念することになるでしょう。この観点からは、常に法律と安全衛生のチェック機能を働かせることが大切、と言えます。もし、どうやっても法律や安全衛生の問題が解決できない場合には、その問題が関係する業務を停止せざるをえない、製品・サービスの供給を停止する、という厳しい決断をせざるをえません。
或る一つの問題とその解決対策に集中的に取り組むと、とかく、問題解決担当者は苦労して立てた対策案への思い入れが深くなり、その対策案を無理にでも通そうとして、「予想される別の問題」の悪影響を過小評価しがちです。心情的には止むをないことかもしれません。しかし、法律と安全衛生のチェックさえ厳格にしておけば、最低限のラインは守れることになります。
当項での注意喚起は、複雑重要問題における落とし穴を回避するために、発しています。それだけに、具体的な事例を紹介したいのですが、落とし穴回避しつつ複雑重要問題を解決しているケースには企業独自のノウハウが詰まっていて、秘密保守契約に反せずに語れる良い事例が、製造業・サービス業ともにありません。
とはいえ、まったく事例なしに、上述のような抽象的説明を理解するのは難しいでしょう。そこで、ここでは、企業ノウハウが詰まった複雑重要事例ではありませんが、以前私が参加した、一般公開された異業種交流会で、他の参加者が発表した実話をもとに、構造化した事例を記述することにします。
それは、大宴会場や直営の大型レストランがあるタイプのホテルにおいて、運営経費を少しでも下げようという取り組みの中でのことです。
使い捨ての白色の紙のランチョンマット(テーブルマット)の消費量が多いため、毎月在庫不足分だけ買い足していたために購入単価が割高で年間購入費用が意外と大きいことに気づき、それを下げるために、営業利益が大きめだった年度の末前に、先々の分までまとめ買いをして購入単価を下げたものの、何年かして一部の紙が黄ばみ出して(紙焼けし始めて)使い物にならなった・・・ というケースです。
このケースにおいては、
・「問題」は「購入単価が割高」であり
・「原因」は「少しずつ購入しているため」であり
・「悪影響」は「運営経費の過大の一要因となっている」
・「対策」が「まとめ買い」です。
その結果、「紙が黄ばむ」という別の問題を生みました。
この問題において、その紙マットは、ダンボール箱にそ透明なビニール袋にまとめて詰めた状態で、納品されていました。そこで考えられる対策は、小分けした上でそれぞれを梱包紙で包んだ上でダンボール箱に入れて納品してもらう、といった方法です。これで、「元の問題」も「別の問題」も解決ができます。
ただし、もし小分けして包装紙で包んでもらった上ダンボールに入れるという手間のために、単価がこれまでになく高くなってしまうならば、経費削減となりませんので、従来通り毎月在庫不足分だけ買い足していく方法を続けざるを得ません。なにしろ、土地が狭く場所代が高い日本では、たとえ自社の土地に建てた自社所有建造物であっても、保管スペースも貴重な空間資産であり、当面使用しない物品を入れたダンボールが山積みとなるような状態は避けるべきです。在庫管理においては、”物”よりも”場所”のほうが高いかもしれない、というチェックポイントを忘れてはなりません。
この紙マットの事例そのものは複雑重要問題ではありませんが、この事例の構造については、複雑重要問題の解決に当たる際の一つの参考になるでしょう。