■職務分掌マニュアルのあり方・作り方・使い方
5‐1「基本的な考え方」
前セクションで述べたように、作業項目を洗い出す前に「作業項目一覧表の“空表”」を作ることが、プロジェクトを進行させる“コツ”である。「先に作業の洗い出しを行い、後からそれを分類する手法」を用いると、分類しきれずにプロジェクトが頓挫することがあるため、先に分類項目を“仮設定”してしまう。したがって、当ステップで行う作業項目の洗い出しは、やみくもに行うのではなく、「作業項目一覧表の“空表”」にて仮設した分類項目ごとに、作業項目を洗い出していくことになる。職務に精通した人の情報を基に仮設定した分類項目であり、かつ、引き続き同一人物が洗い出しをするわけだから、分類項目ごとに作業項目を洗い出すことは、多少時間が掛かっても、立ち往生してしまうほど困難ではないはずである。
5‐2「該当欄への記入」
当講座でいう「作業項目の洗い出し」とは、作業項目一覧表の“空表”の各欄へ、欄の分類項目に該当する作業の名称を記入していく行為である。個々の欄は縦列(年度型職務の場合は作業周期)と横列(年度型職務の場合は作業特性)の2つの要素が重なっているので、記入の際には、その2つの要素を併せ持っているか確認すること。該当する作業項目は、直接、該当欄に名称を記入する。事前に、カードやラベル等を用いて、作業項目を書き出す行為は、あえてしない。各欄に該当する作業項目を思い浮かんだまま記入し、「これ以上、思い浮かばない」となった後、清書する。ホワイトボードに作業項目一覧表の空表を大きく転記し、メンバー全員で眺めながら各欄へ記入していくのも良い方法である。
5‐3「その他」欄への記入
「その他」欄へは、「その他」以外の欄のいずれにも該当せず、かと言って、一つの欄を新たに設けるまでもないような、種々雑多な作業項目を入れる。その職務本来の役割ではないものの、実際には、勤務時間を割いて行わざるをえない作業なども、当欄へ記入する。
5‐4「必須」欄「随時」欄の使い分け「必須」欄と「随時」欄は使い分ける。「必須」欄には、必ず実施する作業の項目を記入する。たとえば毎日必ず実施する作業は、「毎日必須」の欄に記入する。「随時」欄には、対応の必要性が発生した時にだけ行う作業の項目を記入する。それが、たとえ絶対に発生させてはならない事態であっても、万が一発生した以上は、必ず対応する義務を課す場合は、「随時」欄に入れる。典型的な例としては、集客施設に関連する職務における火災対応作業だ。火災は絶対にあってはならない。しかし、もし発生したら、即座に対応できるよう、日頃からスタンバイしていなければならない。
とかく「発生させてはならない」という考えが、いつのまにか「発生しない」という考えへと変化してしまい、スタンバイを怠ってしまうことがある。火災のみならず、安全に関わる作業において、このような「認識のすり替わり」が起きないようにしたいものだ。
5‐5「作業項目の整理」
洗い出しの時点では、先に進めることを優先し、とりあえずその欄に該当する作業を、思い浮かぶまま記入する。そのため、それぞれの欄内の整理はできていない。だから、作業項目の洗い出しが終った後、欄ごとに作業項目を整理する。整理は、「統合」「分割」「名称変更」「削除」「追加」「順番整理」を以て、行う。もちろん、検討の結果、洗い出した時のままでよしと判断される可能性もある。この場合は無理に「統合」「分割」「名称変更」「削除」「追加」「順番整理」する必要はない。とにかく、長期のプロジェクトだけに、進行が停滞してはならない。それゆえ、次項以降のステップの中で、気づき次第、徐々に修正していく進め方で構わない。
●作業項目一覧表の事例1:事業所総務部総務人事課長(gif)
5‐6「番号の付与」
整理が終わったら、全作業項目に番号をつける。全体での通し番号とはせず、欄ごとの通し番号とするほうが改訂時の番号変更が容易である。
5‐7「作業概要一覧表の添付」
具体的な説明は後述となるが、委任判定(セクション7)によって作業の方法を作業者に任せるとした作業に関しては、作業手順書の作成を義務づけない。これにより、作業の概要や目的等を記すページがなくなる可能性があるため、これを補う上で、「作業概要一覧表」を作成し、作業項目一覧表に続くページに挿入する。なお、作業名称が作業の概要や目的等を上手く言い表している場合がある。その場合には、記述内容の多くが重複しても構わないものとする。
5‐8「プロジェクトの進捗に応じた調整」
「作業項目洗い出し」においては、「作業項目の整理」(5‐5)という行為が、「進行に応じた修正」と同格の行為となる。
5‐5で述べたような行為(作業項目の「統合」「分割」「名称変更」「削除」「追加」「順番整理」)は、ステップ6「作業手順書の作成」、ステップ7「参考手順書の作成」を進める中で、行うことになるだろう。特に、作業項目の「統合」や「分割」「名称変更」などは、作業手順書・参考手順書を作成する段階のほうが、その必要性について、より的確な判断ができる。