セクション1「手順書の書式サンプル作成にあたっての諸想定」

1-1「火災を想定した場所」

火災対応は、どのような場所で火災が発生したか、それによって手順が異なる部分があるため※1、場所を想定した上で作成する必要がある。

当講座では、現代社会に生きるすべての人が利用した経験を持つであろう、また、多くの人が勤務した経験を持つであろう大規模屋内集客施設において、火災が発生した場合を想定する。これにより、書式サンプルにて描かれる状況について受講者が想像をめぐらすことを容易にしたい。

ここでいう大規模屋内集客施設とは、不特定多数の人が任意に出入りする複数階の大規模なビル、および、こうしたビルを含んだ敷地全体を想定している。たとえばデパートや駅ビル、シッピングモール、屋内型テーマパークや収容人数が大きい屋内型アトラクションを持つテーマパークなどがその典型である。

が、商業施設に限らず、非商業施設であってもこうした施設はあり得る。たとえば国家機関や自治体の本庁ビル等でも該当すると私は考える。

したがって、講座受講上は、書式サンプルの大前提をあくまでも「大規模屋内集客施設」という抽象的な概念に止めおいて頂き、たとえば「デパート専用」「駅ビル専用」「テーマパーク専用」といったような形で特定をしないで頂きたい。特定をする時とは、当講座を参考にするなりして、実際に受講者自身が勤務する施設専用の火災対応手順書を作成する時として頂きたい。

なお、ホテルや旅館等の宿泊施設も、大規模屋内集客施設の一種とすることもできなくないが、
・利用客が自分の部屋の内側から鍵を掛けることができる
・睡眠という不活発な状態に置かれている
・外出中か在室中か不明な場合がある※2
などの特性があるゆえ、さらに複雑な手順を踏まざるを得ないと判断する。当講座のパート2で紹介する書式サンプルは、こうした特性を考慮に入れた手順としていないため、宿泊施設は対象から外れる。

 

1-2「書式サンプルが『火災予防』ではなく『火災対応』である理由」

当講座で紹介する書式サンプルは、あくまでも文字通り「火災対応」の手順書である。決して「火災予防」の手順書ではない。

しかし、火災という災害は、そもそも予防によって発生させないことが求められるわけで、火災予防手順書の作成を優先しなければならない。それにもかかわらず、当パートで紹介する書式サンプルはあくまでも「火災対応」の手順書である。私がそうする理由は、火災の予防とは施設の設計・素材・防火設備・機器等の性能およびメンテナンスや使用方法・管理方法等に大きく依存し、こうしたハードウエアの領域は、いわば文系・ヒューマンウエア系出身の私の範囲外であるから、である。

したがって、火災予防について勉強したい人は、大学の工学部や建設会社・防災設備機器メーカー等のハードウエア関連の情報、消防庁のハードウエア情報等から勉強して頂きたい。

ただし、ハードウエアが絡む手順書はハードウエアのみの観点から作成されるべきではなく、ヒューマンウエアの観点も交えて作成されるべきものだから、私も参加すべきである。しかし、残念ながら、現在の私にはハードウエアの専門家で無償協力を仰げる人がいないため、火災予防の手順書の書式サンプルには手を出せない。もし、当講座を受講した人の中で、火災予防のハードウェアの専門家・技術者で作成と公開に無償協力をして下さる人がいらっしゃったら、ぜひ私までeメールにてご連絡ください。

当講座は、あくまでも「万が一火災が発生してしまったら、どう対応するか」という、人の行動だけにスポットライトを当て、手順書の書式サンプルを述べるので、その点ご了解頂きたい。

なお、人の行動にスポットライトを当てる関係上、当講座のすべての書式サンプルは、別講座「職務分掌マニュアルのあり方・作り方・使い方」 でいうところの「行動レベル」の作業手順書に限定する。たとえば消火器の扱い方等の「動作レベル」の作業手順書は、ここでは書式サンプルとして掲載しない。

 

1-3「書式サンプルの対象者想定」
~書式サンプルの手順書に基づき誰が行動を起こすのか?

書式サンプルの手順書が対象とする人たちは誰か? つまり、書式サンプルの手順書に基づき誰が行動を起こすのか? その想定は、大規模集客施設の運営業務に携わる職員全員、および、施設から委託を受けている警備会社の警備員とする。

これら職員とは、雇用期間に定めのない従業員(いわゆる正社員・正職員)に限らず、臨時に雇用された従業員、パートタイマー、派遣社員等の全員のことである。

 

1-4「どこの施設を書式サンプルとしているのか」

次セクション以降、「書式サンプル」と称して紹介する火災対応手順書であるが、どこか実際の施設において設定されている手順書を紹介するわけではない。

「当講座の講師の私が、もし大規模屋内集客施設の経営トップに就任したら、自らの責任と権限において、こうした作業手順書を作成し、職員を指導するであろう」との仮定に基づく書式サンプルである。消防署等の公的機関からの指導や承認の下で作成したものでもない。誤解なきよう。

施設の用途、施設の立地、施設の形状、施設の仕様、利用者の置かれる状態、要員数、バックアップ体制など、様々な要素が、施設ごとの特性を作っている。その要素が異なる場合には、手順も同じでない可能性がある。だから、もし貴社が自らの施設専用の手順書を作成するのであれば、一般論としてではなく、慎重に自らの施設の特性を見定めた上で手順を定める必要がある。

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