セクション2「大規模屋内集客施設における火災対応のポイント」

大規模屋内集客施設の火災に、円滑に対応するためのポイントは、次の通り、と私は考える。

1)その施設の経営がお客様の集客により成り立っている以上、とにかく人命救出に集中することとを全職員の絶対義務とする。物品の搬出を義務としない。

2)あらかじめ定めた職務ごとの対応のみならず、火災発生時点で偶然置かれた立場も考慮した手順を定める。

3)火災の規模に関わらず発見したら一番に通報を行うこととする。

加えて、事前の備えとして次の2点がポイントとなる。

4)物品にこだわらずに済むよう十分な保険加入等の措置を講じておく。

5)火災に関する教育を頻繁に行う。

以下、上記のポイントについてそれぞれ補足説明を行う。

 

2-1「とにかく人命救出に集中することとを全職員の絶対義務とする」

言うまでもなく、物より人の命のほうが大切である。しかし、大変高価な貴重品が展示・保管されている施設においては、それを搬出しようという気持ちが強くなるのも、現実である。だが、そうであっても、やはり人命のほうが大切だ。倉庫施設や文化財管理施設などではなく集客施設なのだから、なおさらである。ついては、人命を優先した結果、貴重品等を損失しても処罰の対象としないことを明文化した上、日頃より訓示しておくことが肝要である。

なお、美術館や博物館等も、その利用者収容規模が大きければ、大規模屋内集客施設に該当するが、私は美術館・博物館等には滅多に行かずその運営形態や施設形態等を全く知らない。そのため、もし美術館・博物館等で火災が発生した場合、もちろん人命優先であるとしても貴重品の搬出をどう手順に盛り込むのか、まだ想像がおよばない。そうした施設の協力があれば、いずれ研究してみたいと思う。

 

2-2「火災発生時点で偶然置かれた立場も考慮した手順を定める」

当ポイントについては、次セクション以降にて実際に例示する火災対応手順を見て頂ければ、すぐ分ると思う。「あらかじめ定めた職務」とは書式サンプルに登場する「施設総責任者」「エリア責任者」「警備隊長」が該当する。これらは、火災が起きていない平時の段階で、組織がそれぞれの職務を設定し(つまり役割分担を設定し)、シフトを組んで営業時間帯にはその職務に就く実際の人物もあらかじめ特定してあることとする。

これらの事前任命された職務とは異なり、書式サンプルに登場する「火災発見者」「避難誘導者」は、あらかじめ「○○さんは火災を発見する係に任命する」「○○さんは誘導する係に任命する」と設定するわけではない。火災が発生した時点において偶然置かれた立場から、平時に就いている職務には関係なく、職員誰もが「火災発見者」もしくは「避難誘導者」となり得るからだ。

特に「火災発見者」の立場が理解しやすいはずだが、たとえば平時の職務が経理事務専門であり防災の専任でなくとも、彼が施設内で火災を発見したら、そのとたん、火災対応の行動を取る義務が発生する。「いやあ、私はふだん事務ばかりで防災とは無縁だから・・・」とばかり、火災発見者という立場が果たすべき義務を放棄してしまうわけにはいかない。したがって、火災対応手順においては、火災発生時点に偶然置かれた立場も考慮した手順を、定める必要がある。

以上は、今さら私が言うまでもないかもしれない。しかし、特に「避難誘導者」に関しては、平時に「○○さんは誘導する係に任命する」という形で、特定の人物に役割を割り振ってしまうことにより、その役割を割り振られていない職員が、火災発生時に自分の役割がないかのような誤解をしてしまう事態を懸念し、あえて記述した。大規模屋内集客施設に勤務する者は皆、火災発生時には何かしらの役割を担うべきなのである。

 

2-3「発見したら一番に通報を行うこととする」

もちろん私も含めての話だが、消火活動の素人には、火災の種類や規模等を的確に判断する能力はない。そのため、「この程度なら自分で消火できるから」と通報しないまま初期消火活動に専念したりすれば、結局消火することができず火災規模は拡大してしまった、という事態になりかねない。だから、たとえ初期消火を行うとしても、発見したらまずは通報し、消火活動はその次の行動とすること。決して、「初期消火の効果を見極め、その効果がなかったら初めて通報する」といったような誤った手順を設定してはならない。

 

2-4「物品にこだわらずに済むよう十分な保険加入等の措置を講じておく」

とにかく人命救出を最優先とするために、事前の備えとして、物にこだわらずに済むよう十分な保険加入その他措置を講じておくことが肝要である。

 

2-5「火災に関する教育を頻繁に行う」

ともかく火災は現場にいる人に多大な恐怖感を与える。火や煙も予想のつかない展開をする。そのため、パニックとなる確率はとても高い。パニックとなってしまっては、円滑な対応は不可能である。だから、火災に関する教育は頻繁に行ないたいものである。そうすれば、教育しないのに比べたら、パニックとなる確率は下がるであろうし、対応も円滑になるであろう。

ところが、毎日長時間稼働している大規模屋内集客施設においては、手順の演習を頻繁に行うことが現実には難しい。この現実を承知で私はこう言っているわけで、矛盾している。

この矛盾は是非とも解決したく、解決のための方策として、コンピュータシミュレーションゲーム等のような、火災対応手順に慣れるための訓練プログラムを作成できないものか、特に資金面での協力者を探してきたが、いまだ協力者はみつからない。こうしたゲーム型教材では自らの身体を実際に動かす訓練はできないので効果が抜群とはいえないが、せめてこのぐらいは提供したいと願う。協力して下さる人は、私までメールをお寄せ下さい。

しかし、知識を供与する形、知識を再確認する形の教育ならば、頻繁な実施が可能である。後述もするが、「火災を発見したら、まず通報!」と朝礼等で反復するだけでもよかろう。絶対発生させてはならない、しかし、いつ起きても対応できるようにしておくのが火災なだけに、毎日繰り返し教育することは何らやり過ぎではない。

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